泳げない人でもダイビングはできる?――海の静寂を解き明かす
友よ、まずは座ってお茶でも飲んでいかないか。泳げないから、水が怖いと君は囁くのかい?なら、紅海の秘密を教えてあげよう。魚たちはメダルを競って泳いでいるわけじゃない。君だって、それでいいんだ。

友よ、ようこそ。アハラン・ワ・サハラン。さあ、このカーペットに座ってくれ。今日は北風が吹いている。つまり、ライトハウス・リーフの海面は、眠っている赤ん坊のように穏やかだということだ。この香りがわかるかい?潮風のしぶきと、隣から漂ってくる水タバコのリンゴの香りが混ざり合ったものだ。これこそが、ここダハブの香りだよ。
君は憧れの眼差しで青い海を見つめているが、その肩には迷いが見える。波の音が少し大きく響くだけで、息を止めてしまう。私にはわかるよ。その表情を、これまで千回も見てきたからね。
君は身を乗り出し、私にこう囁く。「マリク、魚が見たいんだ。君が話してくれたサンゴの庭が見たい。でも……私は泳げないんだ」
私が笑うとでも思ったかい?カイロやロンドンのスイミングプールに君を追い返すとでも?いや、私はもう一杯お茶を注ぐよ。なぜなら、それは君が自分自身について信じ込んでいる、最大の嘘だからだ。海は、君にマイケル・フェルプスになれとは言わない。海が求めているのは、ただ穏やかであること、それだけなのだ。
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大きな誤解
事実と、君の頭の中にいる幽霊を切り離してみよう。人々が「泳げない」と言うとき、たいていは「プールの端から端まで、息を切らさずにバタフライで泳ぎ切ることができない」という意味で言っている。腕を風車のように回す完璧な技術を知らない、という意味だ。
ダイビングでは、腕を風車のように動かしてほしくはないのだ。もしここ紅海の水中であちこち手を振り回したりすれば、小さなキンギョハナダイたちを驚かせてしまうし、私も君に対してひどくがっかりしてしまうだろう。
ダイビングとは、「何もしないこと」の芸術だ。それは、怠け者でいるための技術なのだ。
「泳ぎ方を知っていること」と、「水に慣れていること」の間には大きな違いがある。水に慣れているというのは、水に顔をつけてもパニックにならないということだ。もし鼻に水が入っても、少しむせて、それを出し、そのまま続けられるということだ。叫びながら水面までロケットのように飛び出したりしないことだ。
私は、ダイバーとしては最低だったオリンピック水泳選手を教えたことがある。彼らは水と戦おうとする。力強くキックし、肺をふいごのように使う。一生懸命になりすぎるあまり、10分もしないうちにシリンダーの空気は空っぽだ。
一方で、プールの1往復すら泳げないおばあちゃんを教えたこともある。だが海の中ではどうだい?彼女たちは穏やかだ。器材を信頼し、フグのようにぷかぷかと浮いている。彼女たちのほうが、よっぽど優れたダイバーだよ。
遊びのルール(PADIとSSI)
正直に話しておこう。私はガイドであって警察官ではないが、PADIやSSIといった団体にはルールがある。もしボートが君を置いてきぼりにしたとしても(そんなことは決してしないがね、友よ。私は親鳥が雛を数えるようにダイバーを数えているのだから)、君が溺れないという証拠が必要なのだ。
オープン・ウォーター・ダイバーになるには、水泳能力評価をパスしなければならない。恐ろしげな響きだが、そんなことはない。
やるべきことはこうだ。
- 浮身(フロート): 何の補助も使わずに、10分間浮き続けるか立ち泳ぎをすること。マスクもフィンもウェットスーツもなしだ(中性浮力のためにウェイトをつける場合を除く)。背浮きでもいい。犬かきでもいい。空を見上げて夕食の夢を見ていてもいい。ただ、プールの底や壁に触れてはいけないだけだ。
- 水泳:2つの選択肢がある。
- 選択肢A:200メートル泳ぐ。時間制限はない。泳ぎ方は自由だ。クロールでも、平泳ぎでも、昨日君が発明した泳ぎ方でも構わない。ただ、途中で止まってはいけない。
- 選択肢B(秘密兵器):マスク、スノーケル、フィンを使って300メートル泳ぐ。
この「選択肢B」があるからこそ、私は君に希望があると言っているのだ。
足にフィンを履けば、君はもう不器用な人間ではない。半分魚になったようなものだ。フィンは君に力を与え、マスクは視界を拓き、スノーケルは顔を上げずに呼吸をさせてくれる。足を動かし、筒を通して息を吸うことができれば、このテストは合格できる。
| 項目 | 水泳(器材なし) | 水泳(器材あり) | 時間制限 |
|---|---|---|---|
| 距離 | 200メートル | 300メートル | なし(連続して泳ぐこと) |
| 泳法 | 自由 | マスク、スノーケル、フィン使用 | 該当なし |
| 難易度 | 泳げない人には高い | 低〜中 | 該当なし |
「岩」と呼ばれたトーマスの物語
ある物語をしよう。3年前、トーマスという男が私の店にやってきた。ドイツから来た男だ。体格が良く、力強かったが、彼は海をまるで酸で満たされているかのような目で見つめていた。
彼は私に言った。「マリク、私は沈んでしまう。私は石でできているんだ。泳ぐことができないんだよ」
奥さんがダイビングを愛していたので、彼はもう一人でビーチに座っていたくないという理由で、ダイビングをしたがっていた。彼は自分を恥じているようだった。
私たちはライトハウスの浅場へ行った。そこは腰ほどの深さしかない。私は彼にウェットスーツを着せた。ネオプレンという素材が何をするか知っているかい?それは無数の泡で満たされている。浮くんだ。そして、BCD(浮力調節具)を装着させた。これは基本的には、私たちが制御できるライフジャケットのことだ。
私はトーマスに「仰向けに寝てごらん」と言った。
彼はパニックになった。「沈んでしまう!」
「トーマス」と私は言った。「君は今、ラクダ一頭を浮かせるのに十分なほどのゴムを身にまとっているんだ。さあ、身を任せて」
彼は仰向けになった。そして浮いた。沈もうとしても沈めないほどに。私たちは2日間、ただスノーケリングだけをした。ダイビングではない。ただ、水の中に顔がある感覚に慣れるためだ。それが壁だったのだ。彼の筋肉の問題ではない。脳が「危険だ!空気がなくなるぞ!」と叫んでいたのが原因だったのだ。
300メートルのスノーケルテストの時、彼は緊張していた。彼はフィンを履いた。私は彼の隣を泳いだ。
「ただキックするんだ、トーマス。ゆっくり。左、右。そして呼吸をして」
彼はやり遂げた。「泳ぐ」ことを考えるのをやめ、「滑走する」ことを考え始めたのだ。終わったとき、彼は顔を上げて泣いていた。悲しくてではない。自分を閉じ込めていたのは自分の足ではなく、自分の心だったのだと気づいたからだ。
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器材が仕事をしてくれる
友よ、器材を理解しなければならない。私たちにはテクノロジーがある。
泳いでいるとき、君は重力と戦っている。浮き続けるためには動き続けなければならない。
だがダイバーのとき、君は中性浮力という状態にある。ウェットスーツは浮きすぎてしまうから、私たちはわざわざ鉛のウェイトをつけるほどだ。想像できるかい?君は沈むことを心配しているが、私の仕事は、君を沈めるために十分な重さを加えることなのだ。
水の中では、腕は使わない。胸の前で組むか、計器を握っていればいい。脚を穏やかに動かすだけだ。動きを止めても、沈むことはない。そのまま漂っていられる。魔法の絨毯に乗った精霊(ジン)のように。
水面で疲れたら?インフレーターホースのボタンを押せばいい。シューッ。タンクからの空気がジャケットに入る。これで君はボートと同じだ。そこで眠ることだってできる(だが、いびきはかかないでくれ、イルカたちが驚いてしまうからね)。
真の壁:パニックか、平穏か
ダイビング団体が君に少し泳がせようとするのは、運動能力を見るためではない。それは「余裕」を確認するためだ。マスクが外れてしまったときに、海を吸い込んでしまわないかどうかを見たいのだ。
もし身体的な制約があって泳げないというのなら、いくらでも工夫ができる。水かきのついたグローブもあるし、特別な技術もある。忍耐強いインストラクターもいる。
だが、もし水が怖すぎて泳げないのであれば、それは別だ。それは私たちが乗り越えなければならない壁だ。
自分に問いかけてみてほしい。「水が怖いのか」それとも「溺れるのが怖いのか」
溺れるのが怖いのであれば、それは素晴らしいことだ。健全な証拠だよ。私も溺れるのは怖い。だからこそ器材を確認するし、残圧計をチェックするのだ。
だが、もしその恐怖のせいで体が凍りつき、板のように硬くなってしまうというのなら、ゆっくり始める必要がある。まだブルーホールには行かない。砂地の湾へ行こう。そこで立ち上がり、顔を水につけ、呼吸をする。水が自分を支えてくれていることを実感するのだ。
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泳げない人のためのマリクのアドバイス
さて、ダイビングをしたいかい? ヤッラー(さあ行こう)、やってみようじゃないか。ただし、君に処方箋を出しておこう。
- インストラクターに嘘をつかないこと。 すぐに伝えるんだ。「泳ぎが得意ではありません」と。優れたインストラクターなら、微笑んで「問題ありません」と言ってくれるだろう。もし彼らが呆れた顔をするようなら、ダハブにおいで。私を探せばいい。私が教えてあげよう。
- まずはスノーケリングから。 マスクとスノーケルを買おう。プールへ行こう。ただ浮いてみるんだ。顔を下に向けて呼吸ができることを学ぶ。これが戦いの9割だ。
- 適切な場所を選ぶこと。 大きな波がある冷たくて暗い海で学んではいけない。紅海においで。タイでもいい。水が温かく、透明で、浅い場所へ行くんだ。
- 時間をかけること。 他の人が3日かかるコースなら、君は5日かけたっていい。誰が気にするというんだ?魚たちは君のスケジュールなんてチェックしていないよ。
海は広いんだ、友よ。砂漠よりもずっと古くからある。君が金メダリストだろうが、体育の授業で赤点だろうが、海は気にしない。海が求めているのは、敬意だけだ。
お茶を飲み干してくれ。グラスは空だ。明日の朝、ショップで会おう。ウェットスーツを着せて、浅場へ行こう。そうすればわかるはずだ。君は石なんかじゃない。ただ、浮き方を忘れてしまっただけの魚なんだということが。