レギュレーターの機構:ピストン式、ダイアフラム式、そして生き残るためのメンテナンス
レギュレーターは玩具ではない。それは死を欺くための機械だ。ピストン式とダイアフラム式の違いを理解し、それが原因で命を落とさないための術を学べ。

水深120メートル。水温は摂氏4度。視界は漆黒の闇だ。お前の肺と、大西洋の圧倒的な水圧を隔てているのは、精密に削り出された真鍮の塊と、数本のゴム製Oリングだけだ。
熱帯のレクリエーショナルダイバーは、器材を玩具のように扱う。レギュレーターを砂の上に放り出し、碌に確認もせずに水ですすぐ。空気が常に供給されるのが当然だと思い込んでいる。
俺は思い込みなどしない。飽和潜水において、思い込みは「蓋を閉じた棺桶での葬儀」への第一歩だ。
深海で、あるいはフィヨルドの冷たい海で生き残るためには、生命維持装置のメカニズムを理解する必要がある。どのように圧力が下げられるのか、そして気温が下がったときになぜバルブの選択が重要になるのかを知る必要がある。そして、器材を破壊せずに洗浄する方法もだ。
ファーストステージ:野獣を飼い慣らす
背中のタンクには、約3000 psi(200 bar)、時にはそれ以上の圧力でガスが充填されている。もしその圧力を直接肺に受ければ、濡れた紙袋のように肺が破裂するだろう。
ファーストステージはその「筋肉」だ。タンクバルブに固定され、その巨大なタンク圧を「中圧」まで低下させる。これは通常、周囲の環境圧よりも135〜145 psi高い値に設定される。いわばガスの降圧変圧器だ。
この機械的な魔法を実現するには、主に2つの方式がある。「ピストン式」と「ダイアフラム式」だ。
ピストン式レギュレーター
ピストン式はシンプルだ。可動部品が少ない。内部では、中空の金属製ピストンがスプリングに抗して前後に動き、空気の流れを制御する。
長所: 膨大な流量を確保できる。深場にいて激しく呼吸していても、ハイエンドのバランスピストン式なら難なくガスを供給してくれる。
短所: 標準的な設計では、メインスプリングのチェンバー内に水が入る構造になっている。カリブ海なら問題ないが、ノルウェーでは致命的だ。ピストンの周囲で水が凍結し、レギュレーターが開放状態でロックされる。フリーフロー(free flow)の発生だ。タンクは数秒で空になり、海中には騒音と泡が充満する。最悪の事態だ。
ダイアフラム式レギュレーター
これが俺の選択だ。柔軟なゴム製のダイアフラムが、内部機構を外部の水から遮断している。ピンがダイアフラムからの圧力をバルブシートに伝える仕組みだ。
長所: 密閉されている(環境遮断)。凍てつく海水が内部の可動金属部品に触れることはない。凍結に強く、沈泥や汚れにも耐性がある。
短所: 部品点数が多い。オーバーホールの難易度がわずかに高い。だが、生命維持装置の内部に氷の結晶が形成されないためなら、その複雑さは安い代償だ。
バランス型 vs. アンバランス型
ここで物理法則がお前の財布を直撃する。
アンバランス型: タンク圧がバルブの開閉を補助する。タンクが空に近づき圧力が下がると、呼吸抵抗が変わる。深く潜るほど、またタンク残圧が減るほど呼吸が苦しくなる。これらは安価で、レンタル器材用だ。俺ならプールの掃除にさえ使いたくない。
バランス型: タンク圧がバルブを開ける力に影響を与えないように設計されている。200 barの時も50 barの時も、同じガス供給が得られる。水深10メートルでも100メートルでも、呼吸のしやすさは変わらない。深く潜るなら、バランス型一択だ。
現実主義者のための比較表を以下に記す。
| 特徴 | バランス・ダイアフラム | バランス・ピストン | アンバランス・ピストン |
|---|---|---|---|
| 空気流量 | 優秀 | 極めて優秀 | 並 |
| 冷水対応 | 極めて優秀(密閉) | 劣る(密閉型を除く) | 劣る |
| 信頼性 | 高い | 高い | 普通 |
| コスト | 高い | 高い | 低い |
| 最適用途 | 冷水・濁水、テック | 深場・温水 | 浅場・温水 |
セカンドステージ:デマンドバルブ
ガスは中圧ホースを通ってファーストステージから離れ、セカンドステージに到達する。お前の口に咥える部分だ。
セカンドステージはその140 psi前後の圧力を、周囲圧まで下げる。「デマンドバルブ(demand valve)」、つまり吸い込んだ時にだけガスを供給する仕組みだ。
内部にはレバーがある。お前が空気を吸うと、ケース内の圧力が下がる。すると外部の水圧に押されてダイアフラム(ファーストステージとは別のもの)が内側にたわみ、レバーを叩く。レバーがバルブを開き、お前は空気を得る。
息を吐き出すと、ダイアフラムが押し戻されてレバーが閉じ、排気バルブが開いて泡が放出される。
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仕組みは単純だ。だが、調整が不十分だと一呼吸ごとに格闘することになる。これが「呼吸抵抗(work of breathing)」だ。呼吸抵抗が高いと二酸化炭素(CO2)が蓄積する。CO2の蓄積はパニックを招き、パニックは死を招く。
メンテナンス:愚か者になるな
ダイビングが終わるやいなや、ダストキャップもせずにレギュレーターを洗浄タンクに放り込んで立ち去るダイバーを何度も見てきた。
もし俺がそいつらのスーパーバイザーなら、その場でクビにしている。
ファーストステージで最も重要な部品は、**焼結フィルター(sintered filter)**だ。入り口にある小さな金属メッシュで、タンクからの錆やゴミが繊細な高圧シートに侵入するのを防いでいる。
もしファーストステージの入り口に水を入れてしまえば、高圧システムを水没させたことになる。水はスプリングを腐食させ、潤滑剤を劣化させ、残圧計を台無しにする。
洗浄プロトコル
- ダストキャップの固定: 水がレギュレーターに触れる前に、ファーストステージの入り口にダストキャップを装着しろ。キャップは乾いていなければならず、きつく締める必要がある。DINバルブ(お前も使うべきだ。ヨークバルブは観光客用だ)を使用している場合は、スクリューキャップが密閉されていることを確認しろ。
- 高圧洗浄の禁止: ホースでファーストステージに水を叩きつけるな。シールを越えて水が浸入する可能性がある。優しい流れで十分だ。
- パージボタンを押さない: レギュレーターが水に浸かっており、加圧されていない状態では、絶対にセカンドステージのパージボタンを押すな。バルブが開いてしまい、水がホースを逆流してファーストステージに入り込む。洗浄タンクでこれをやっている奴をよく見かけるが、自分の器材を自分で水没させているようなものだ。
- 浸け置き: 塩の結晶はコンクリートのように固まる。素早く水にくぐらせるだけでは無意味だ。真水に1時間は浸け、塩を溶かし出せ。
- 乾燥: 吊るして干せ。直射日光は避けろ。紫外線はゴムホースを破壊する。
器材の末期症状
機械的な故障が突如として起こることは稀だ。機械は常に警告を発している。お前がそれを聞き取れるかどうかだ。
1. ヒス音(漏れ)
タンクを加圧した際、ファーストステージから「シュー」というヒス音が聞こえるなら、Oリングの破損か高圧シートの故障だ。潜るな。もし水中でそのシートが完全に破損すれば、中圧が急上昇する。セカンドステージでは抑えきれず、激しいフリーフローを引き起こす。
2. 中圧値のクリープ (IP creep)
残圧計の針が小刻みに動いたり、セカンドステージが数秒おきに「プフッ」と泡を吐き出したりすることがある。これは「IPクリープ」と呼ばれる現象だ。内部の高圧シートが完全に密閉されていない。圧力がタンク側からホース側に漏れ出しているのだ。最終的にはセカンドステージを押し開けることになる。技術者による修理が必要だ。
3. 呼吸抵抗の増大
空気を吸い込むのに力が必要なら、何かがおかしい。フィルターが目詰まりしているか、レバーの高さが低すぎるか、あるいは潤滑剤が乾ききっている可能性がある。呼吸のしにくさはストレスを生む。ストレスは人を殺す。
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極寒の教訓
北海での仕事を覚えている。冬だった。パイプラインのフランジ作業をしていた俺は、2年間メンテナンスしていなかったバックアップ用のレギュレーターを使っていた。予備だから大丈夫だろう、と高を括っていた。
ガス交換の際、それに切り替えた。水温は氷点に近い。一息吸い込んだ瞬間、密閉されていないピストンが凍結した。熱衝撃に耐えられなかったのだ。レギュレーターは開放状態でロックされた。
消火用ホースを喉に突っ込まれたような感覚だった。ガスの噴射があまりに激しく、頬がバタバタと震えた。肺を損傷せずに呼吸するためだけに、シリンダーのバルブを回して流量を調整しなければならなかった。潜水は中止。報酬は失われ、俺は素人のように恥をかいた。
それ以来、俺はすべてをチェックする。ダイビングの回数に関わらず、毎年器材をオーバーホールに出している。
金属は腐食し、ゴムは朽ち、塩はすべてを破壊する。
レギュレーターは、お前が水面下の敵対的な世界を訪れることを許してくれる唯一の存在だ。敬意を持って扱え。正しく洗浄しろ。頻繁に整備しろ。
それができないなら、船の上にいろ。あそこなら、ここよりは暖かい。